(16)  立ち別れ いなばの山の 嶺におふる
     待つとし聞かば 今帰り来む(中納言行平)

     (歌意)あなたとお別れして因幡に行きますが、
         因幡山の峰に生える松の名のように
         あなたが待っていると聞いたなら すぐに帰って来ましょう。

         If breezes on Inaba’s peak
         Sigh through the old pine tree,
         To whisper in my lonely ears
         That thou dost pine for me,––
         Swiftly I’ll fly to thee.    THE IMPERIAL ADVISER YUKIHIRA

 赴任先の因幡(鳥取県)は松の名所として知られていたが、作者の中納言行平(在原行平)は、松しかないような田舎へ赴くのが 嫌だったそうです。「いなば」は「因幡」と「往なば」、「まつ」は「松」と「待つ」の二箇所に掛詞を使って詠んだ歌です。
在原行平は、次の十七番の歌の作者、業平とは異母兄弟です。行平は「源氏物語」須磨巻のモデルの一人で、業平は「伊勢物語」の主人公とされています。兄の行平に「色好み」の傾向はなく、まじめで有能な官僚で、どちらも好男子ですがタイプは違うようです。