(89) 玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば
      忍ぶることの 弱りもぞする(式子内親王) 

       (歌意)私の命よ、絶えてしまうなら絶えてしまえ。
           もし、生きながらえていると
           この恋を忍ぶことができなくなり、
           人に知られてしまうかもしれないから。

           The ailments of advancing years
           Though I should try to hide,
           Some day the thread will break, the pearls
           Be scattered far and wide;
           Age cannot be defied.     PRINCESS SHOKUSHI

今まで長い間この恋を隠してきたけど、これ以上は隠しきれない。生きていれば顔色に出て、世間に知れ渡ってしまう。それならいっそ命が絶えてくれれば、と切ない命懸けの恋心を歌っています。式子内親王は後白河院の皇女で賀茂斎院を務めました。藤原定家の父、藤原俊成に歌を学んでおり、十四歳年上の定家と恋愛関係にあったと噂されています。写真は、耐え忍んでいる様子を凍てついた手水鉢で表現しました。



(90) 見せばやな  雄島のあまの 袖だにも
     ぬれにぞぬれし 色はかはらず(殷富門院大輔)

       (歌意)私の袖をお見せしたいものです。
           雄島の漁師の袖でさえ濡れたとしても色は変わらないのに。
           (私の袖は涙でこのように変わりました)

            The fisher’s clothes,though cheap, withstand
            The drenching they receive:
            But see! my floods of tears have blurred
            The colors of my sleeve,
            As for thy love I grieve.
                         THE CHIEF VICE-OFFICIAL IN ATTENDANCE 
                               ON THE DOWAGER EMPRESS IMPU 
血の涙で色が変わってしまった私の袖を、あの人に見せたいものです。と「血の涙」という少しオーバーな表現で恋のつらさを歌っています。この歌の「あま」は海人、つまり漁師のことで、その漁師が漁をしているときに、袖を濡らしてしまう様子を言っています。血の涙で色が変わってしまった袖のことを、雄島(宮城県の松島)の空の色が染まっていくことで表現しました。