(93) 世の中は 常にもがもな 渚こぐ
          あまの小舟の 綱手かなしも (鎌倉右大臣)

        (歌意)世の中は常に変わらないでほしい。
            海辺で漁師が小さな船の曳き綱を引いている様子が
            いとおしく感じられるなあ。

         I love to watch the fishing-boats
         Returning to the bay,
         The crew, all straining at the oars,
         And coiling ropes away;
         For busy folk are they.
            THE MINISTER OF THE RIGHT DISTRICT OF KAMAKURA 

この頃は、北条氏が権力を持ち始めた頃で、作者の鎌倉右大臣(源実朝)は、政治にはあまり関心を示さず、文化の方に関心を持ったようです。頼朝の子として、十一歳で三代将軍になるが、鶴岡八幡宮で甥の公暁に暗殺された。この歌は、鎌倉の海で漁師の日常を眺めながら、変わることのない世を願って詠んだ歌です。写真は、鎌倉ではなく瀬戸内海ですが、漁をする帆船が浮かんでいるゆったりとした風景にし、世の無常を願う実朝の心情を表現しました。 鎌倉の海岸を撮影するつもりで由比ヶ浦に行ったけど、趣が違っていたので不採用です。そのときに立ち寄った鶴岡八幡宮では、実朝を暗殺しようとして、公暁が身を潜めていた樹齢1000年以上の大銀杏は、2010年に強風で倒れてなくなっていました。小学校の修学旅行で見た記憶は残っておりますが・・・。そこには実朝と同じように、世の無常を感じるものがありました。
 

(94) み吉野の 山の秋風 さ夜更けて
      ふるさと寒く 衣打つなり(参議雅経)

       (歌意)吉野の山の秋風が吹くころ、
           古い都のあったこの里は寒くなり
           衣を打つ砧の音が寒々と聞こえてくるなあ。

           Around Mount Miyoshino’s crest
           The autumn winds blow drear;
           The villagers are beating cloth,
           Their merry din I hear,
           This night so cold and clear.
                    THE PRIVY COUNCILLOR MASATSUNE

作者の参議雅経(飛鳥井雅経)は、才能豊かな人で雅楽の篳篥の奏者でもあり、蹴鞠を得意とし、蹴鞠の名門「飛鳥井流」を立ち上げた人だそうです。 歌は、かつて都があったとは思えぬほど寂しい吉野に、砧を打つわびしい音が響き、さらに秋の寂しさが増してくるという、哀愁漂う歌です。
砧(きぬた)は、洗濯した布を生渇きの状態で台に乗せ、棒や槌でたたいて柔らかくしたり、皺をのばすための道具。また、この道具を用いた布打ちの作業を指す。古代から伝承された民具であり、古くは夜になるとあちこちの家で砧の音がした。    Wikipediaより