(01)  秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ
         わが衣手は 露に濡れつつ(天智天皇)

      (歌意)秋の田のそばにある仮小屋の屋根は粗いので
           そこで番をする私の袖は、露で濡れていってしまうなあ。

          Out in the  fields this autumn day
          They’re busy reaping grain;
          I sought for shelter’neath this roof,
          But fear I sought in vain,
          My sleeve is wet with rain.   THE EMPEROR TENJI

                   斎宮跡(三重県)の古代米
この歌の作者は天智天皇となっていますが、天皇自らが仮小屋で番をするとは思われないので、「詠み人知らず」の伝承歌が天智天皇作とされたというのが通説だそうです。当時の人々の解釈では、天皇が農作業に携わる農民達の立場に立って、その気持ちを思いやり詠んだ歌とされております。

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(02)  春過ぎて 夏来にけらし 白妙の
          衣ほすてふ 天香具山 (持統天皇)
      (歌意) 春が過ぎて夏が来たらしい。
           夏に白い衣を干すといわれているこの天の香具山に。

           The spring has gone, the summer’s come,
           And I can just descry 
           The peak of Ama-no-kagu,
           Where angels of the sky 
           Spread their white robes to dry.  THE EMPRESS JITO

                    
  青い空と稲の緑、それと白い衣とのコントラストで初夏の風景を表現

作者の持統天皇は第一首の天智天皇の皇女です。百人一首撰者の藤原定家は、あえて第一首の後に娘の句を持ってきて、最後の九十九首目と百首目も親子の歌にしたのは、意図した構成なのだそうです。 この歌の「白妙の衣」というのは、この地方には神水に浸した白い布を干したものから、その人の嘘を見抜くという伝説があり、その儀式に使われた布のことであるようです。