(53) 嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は
       いかに久しき ものとかは知る (右大将道綱母)

      (歌意)あなたが来ないことを嘆きながら
          独り寝をする夜の開けるまでの間がどんなに長いものか
          あなたは、ご存知ないでしょうね。

          All through the long and dreary night
          I lie awake and moan;
          How desolate my chamber feels,
          How weary I have grown 
          Of being left alone!
                    THE MOTHER OF MICHITSUNA,
                       COMMANDER OF THE RIGHT IMPERIAL GUARDS


         嵯峨嵐山文華館(旧百人一首時雨殿)で撮影した着物と燭台を合成

藤原兼家との子供、道綱を産んで間もなく兼家は三晩続けて来なかった。調べさせたところ、新しい女性の家に通っていたそうです。兼家が数日してからやって来たとき、道綱母は門をなかなか開けなかったところ「待ち疲れた」と言われたので、その直後に枯れかけた菊の花を添えて送ったのがこの歌です。嫉妬と怒りに燃えた歌のようです。

    

(54) 忘れじの 行く末までは かたければ
      今日を限りの 命ともがな (儀同三司母)

       (歌意)私のことをいつまでも忘れはしないと
           おっしゃった言葉がいつまでも続くとは思えないから、
           そのお言葉をお聞きした幸福な今日を限りに
           死んでしまいたいほどなのです。

           How difficult it is for men
           Not to forget the past!
           I fear my husband’s love for me
           Is disappearing fa
           This day must be my last.
                   THE MOTHER OF THE MINISTER OF STATE

「ずっと愛してるよと」言われても、いつ迄も通ってくれるとは限らないこの通い婚の時代、愛してると言われた今が一番幸せなので、このまま死んでしまってもいいと思う「幸福の絶頂」にいる女性の心情を、ハスの花が最も綺麗に咲いている「花の絶頂期」に重ねました。