(73) 高砂の 尾の上の桜 咲きにけり
      外山の霞 立たずもあらなむ(前中納言匡房)

          (歌意)高い山の峰に桜が咲いたなあ。
              人里に近い山の霞よ
              あの桜が隠れてしまうから立ち込めないでおくれ。

              The cherry trees are blossoming
              On Takasago’s height;
              Oh may no mountain mist arise,
              No clouds so soft and white,
              To hide them from our sight.
                   THE ASSISTANT IMPERIAL ADVISER MASAFUSA

この歌は、屏風絵を見立てた歌で実景を詠んだのではないとされてます。美しく咲いた桜の花を霞が見えなくしないでほしいという気持ちはよく分かりますね。霞を擬人化して詠んでいます。 

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 (74)  憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ
     はげしかれとは 祈らぬものを (源 俊頼 朝臣)

       (歌意)つれないあの人が私になびくようにと
           観音様にお祈りしたけど
           初瀬の山に吹く冷たい山嵐よ、
           私に対していっそうつれなくなれとは
           祈らなかったのに。   源 俊頼朝臣 

           Oh! Kwannon, Patron of this hill,
           The maid, for whom I pine,
           Is obstinate and wayward, like
           The gusts around thy shrine.
           What of those prayers of mine?
               THE MINISTER TOSHIYORI MINAMOTO 

                           
奈良県の長谷寺は恋の願掛けで名高く、平安時代には多くの人々が、恋の成就を祈願するために通ったそうです。源氏物語などにも登場し、初瀬観音と呼ばれる「十一面観世音菩薩立像」は国内最大級だそうです。 作者の源 俊頼も、このように雪が舞い、冷たい風が吹き荒ぶ中、震えながら祈ったのでしょうか。